最低賃金

最低賃金引き上げと特定技能外国人の給与設計

最低賃金引き上げと特定技能外国人の給与設計

※この記事は2026年7月時点の情報に基づいています。最低賃金額は令和7年度(2025年度)改定の確定額を、特定技能の報酬要件は出入国在留管理庁の公表資料を出典として整理しています。今後の年度改定で金額は変わりますので、最新額は必ず一次情報でご確認ください。

最低賃金の引き上げが毎年のニュースになるようになり、「自社の日本人パートの時給を上げなければ」という話は多くの企業様が実感されていることと思います。一方で見落とされがちなのが、特定技能外国人の給与への影響です。特定技能では報酬額そのものが受け入れの「要件」に組み込まれているため、最低賃金の上昇は、単なるコスト増にとどまらず在留資格の適法性にまで関わってきます。この記事では、令和7年度の最低賃金改定が特定技能外国人の給与設計にどう効いてくるのかを、受入企業の人事・経営の目線で整理します。

令和7年度の最低賃金はどれだけ上がったのか

まず事実の確認からです。厚生労働省の公表によれば、令和7年度(2025年度)の地域別最低賃金は、改定額の全国加重平均が1,121円となりました。前年度の1,055円から66円の引き上げで、これは目安制度が始まった昭和53年度以降で最大の引き上げ額です。この改定により、初めて全都道府県で最低賃金が時間額1,000円を超えました(出典: 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」)。改定後の最低賃金は、2025年10月以降、各都道府県で順次発効しています。

近年の全国加重平均の推移を見ると、上昇のペースが加速していることがはっきりわかります。

地域別最低賃金の全国加重平均の推移を示す折れ線グラフ。令和2年度902円から令和7年度1,121円まで6年連続で上昇し、令和7年度は前年度比プラス66円と過去最大の引き上げ幅

数年前まで900円台だった全国加重平均は、わずか数年で1,100円台に乗りました。しかもこの流れは今後も続く見通しです。政府は全国加重平均を1,500円とする目標を掲げており、達成時期こそ方針段階で見直しが続いているものの、引き上げ基調そのものは当面変わらないと見ておくのが現実的です。つまり「今年たまたま上がった」のではなく、毎年上がり続ける前提で給与を設計する必要がある、というのが出発点になります。

なぜ最低賃金の上昇が特定技能に直撃するのか

ここが本題です。日本人従業員であれば、最低賃金は「これを下回ってはならない下限」であり、下限さえ守れば給与設計は各社の裁量です。ところが特定技能外国人の場合、報酬額は在留資格の要件そのものになっています。

特定技能外国人の受け入れでは、その報酬額が**「日本人が同等の業務に従事する場合の報酬額と同等以上」**であることが求められます(出典: 出入国在留管理庁「特定技能制度に関するQ&A」Q26)。これは特定技能雇用契約が適正であることの基準の一つで、この「同等以上」は最低賃金より高い水準を求められる場面が多い点に注意が必要です。制度全体における報酬要件の位置づけは、「特定技能制度とは?企業向けに仕組みを解説」でも触れています。

では「同等以上」かどうかは、どう判断されるのでしょうか。出入国在留管理庁は判断の順序を示しています。

自社の状況 報酬額の判断のしかた
賃金規程がある その賃金規程に基づいて判断する
同等の業務の日本人がいる その日本人労働者と比較して同等性を判断する
近い業務の日本人はいる 役職・責任の程度、年齢・経験年数を踏まえ、報酬差が合理的に説明できるかを検討する
比較対象の日本人がいない 契約書の報酬額を、近隣同業他社の同等の外国人の報酬額と比較する

出典: 出入国在留管理庁「特定技能制度に関するQ&A」Q26・Q30を基に当社作成

ここで最低賃金の上昇が効いてきます。比較対象となる日本人パートやアルバイトの時給が最低賃金の引き上げで押し上げられれば、「同等以上」の基準となる水準も一緒に上がります。つまり最低賃金の上昇は、特定技能外国人の給与の「下限」を二重に押し上げるのです。一つは最低賃金という法定の下限として、もう一つは比較対象となる日本人の賃金水準の上昇を通じて、です。

実務で起きる3つの論点

最低賃金の改定期に、私たちが企業様からご相談を受けやすいのが次の3つの論点です。

第一に、**据え置いた給与が改定後に最低賃金を下回る「追い越し」**です。採用時に最低賃金より少し高く設定していても、翌年の改定で下限が上がれば、据え置いたままの人が最低賃金割れを起こすことがあります。特定技能では最低賃金割れは在留資格の要件違反にも直結するため、日本人以上に注意が必要です。

最低賃金の上昇で賃金の追い越しが起きる例の図解。時給1,080円で据え置いた社員が、愛知県の最低賃金が1,077円から1,140円へ改定されたことで、改定後は最低賃金を60円下回る状態になることを示す

第二に、地域差です。最低賃金は都道府県ごとに異なり、令和7年度改定でもその差は残っています。複数の事業所を持つ企業様では、同じ職務でも事業所の所在地によって満たすべき下限が変わります。私たちの対応エリア(愛知・岐阜・奈良・三重)に、参考として賃金水準の高い東京・大阪を加えて並べると、次のとおりです。

都道府県 令和7年度の最低賃金(時間額) 発効日
東京都 1,226円 2025年10月3日
大阪府 1,177円 2025年10月16日
愛知県 1,140円 2025年10月18日
三重県 1,087円 2025年11月21日
岐阜県 1,065円 2025年10月18日
奈良県 1,051円 2025年11月16日

出典: 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」を基に当社作成

第三に、**社会保険料や割増賃金など「賃上げの波及」**です。基本給や時給を引き上げると、時間外・休日労働の割増賃金の単価も上がり、社会保険料の等級にも影響することがあります。特定技能外国人は本人負担分の手取りにも敏感なため、額面だけでなく手取りと生活実感まで含めて設計しないと、せっかく上げても定着につながりません。給与の見直しが定着コストに跳ね返る構造は、「登録支援機関の費用相場は?内訳と選び方を解説」で整理した「安い支援より離職を防げる支援」という考え方とも地続きです。

今動くべき会社と、様子を見てよい会社

最低賃金の改定は毎年のことですが、対応の緊急度は企業の状況によって分かれます。

次のような企業は、今の改定期に一度給与テーブルを点検しておくことをおすすめします。

  • 特定技能外国人を採用済みで、採用時の時給と最低賃金の差が数十円程度しかない企業。次の改定で追い越しが起きるリスクが高い状態です。
  • 最低賃金が高い地域(東京・大阪など)や当社の対応エリアの愛知などに事業所があり、複数拠点で給与テーブルを共通運用している企業。地域差を反映しないと、拠点ごとに要件充足の状況がずれます。
  • 賃金規程を整備しておらず、「同等の日本人」との比較根拠を書面で説明しにくい企業。改定を機に規程を整えると、在留手続きの説明資料としても機能します。

一方で、次のような企業は、情報を追いながら段階的に対応しても間に合います。

  • 採用時から最低賃金にじゅうぶんな上乗せをして給与を設計しており、直近の改定でも下限に余裕がある企業。
  • まだ特定技能の受け入れを検討し始めた段階で、これから給与設計に着手する企業。最初から改定を織り込んだ設計にすればよく、既存契約の手直しは発生しません。

どちらの立場でも共通するのは、「毎年上がる」を前提に、単年の帳尻合わせではなく数年先を見据えた給与テーブルを持つことです。技能実習に代わる育成就労も見据えると、長期の賃金設計はますます重要になります(制度の流れは「育成就労はいつから?施行日と企業の準備を解説」をご覧ください)。

明日できる3つの確認

読み終えたあと、自社ですぐに着手できる確認事項を3つに絞りました。

  1. 特定技能外国人の現在の時給と、事業所所在地の令和7年度最低賃金との差額を一覧化する。 差が小さい人から優先的に見直しの検討に入れます。
  2. 「同等以上」の比較根拠を書面で説明できるか確認する。 賃金規程、または同等業務の日本人の賃金データが手元にあるか。なければ改定を機に整えます。
  3. 来年度以降の改定を織り込んだ給与テーブルを作る。 単年の対応ではなく、引き上げが続く前提で数年分の目安を持っておくと、毎年の改定に慌てずに済みます。

まとめ

令和7年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,121円へと過去最大の引き上げとなり、全都道府県で1,000円を超えました。日本人であれば最低賃金は「守るべき下限」ですが、特定技能外国人では報酬額が「日本人と同等以上」という在留資格の要件に組み込まれているため、最低賃金の上昇は給与設計に二重に効いてきます。据え置き給与の追い越し、地域差、賃上げの波及という3つの論点を押さえ、毎年上がる前提で給与テーブルを設計することが、要件充足と定着の両立につながります。

AidBridgeの場合

私たちAidBridgeは、代表が現役の社会保険労務士である登録支援機関です。最低賃金の改定への対応は、在留資格の要件(報酬が日本人と同等以上であること)と、労務管理(賃金規程の整備、割増賃金や社会保険への波及)の両方を同時に満たす必要があります。この両輪を一つの窓口で相談できることが、社労士が運営する登録支援機関としての私たちの特徴です。給与テーブルの点検や賃金規程の整備を、在留手続きの説明資料としても使える形で一緒に整えていくことができます。具体的な進め方は料金ページ支援サービスのページもあわせてご覧ください。

自社の特定技能外国人の給与が改定後の要件を満たしているか不安な場合は、まずは無料相談するところからお気軽にお声がけください。

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